ほうき姫と従者ちりとり


ここはクリーン王国、空は青く、風は優しく、花は美しい。
そんなおとぎ話まんまの国にも悪い事は起きる。
人々の心を汚す邪気ダスト。
妬みに恨みに嘘つき等を囁いては人を黒く染めて操る。
そんなダストを退治するのが、クリーン王家の努めである。
今日も明るく元気に逞しい、ほうき姫と、
今日も暗く無愛想で貧相な、従者チリトリが民を救う!かな?

 

「ほら!早く歩きなさいよ!チリトリ!」

 のどかな山道の真ん中で、この場所とは不釣り合いの色鮮やかな
ドレスを着た少女が、そのドレスに不釣り合いな大きなホウキを一
本持って立っている。
  背丈は同年代の少女と比べたら少しだけ高く、瞳は自身の表れか
大きく見開かれている。伸ばせば長い髪の毛は結わえられ、首元が
露わとなって、とても健康的に見える。
 
「……ホウキ姫が、早いんですよ……」

 彼女を後ろをついてきたのが、これまた陽気な天気とは裏腹に、
全身黒づくめな少年。もう……不釣り合いに大きなチリトリを背中
にしょっている。
 背丈は少女よりも少しだけ低い。つまり同年代の男子よりは少し
だけ低いくらいか。それを気にしているのか、伏し目がちな目をし
ており、長い黒髪を伸ばしっぱなしにしているようで、とても……
弱そうに見える。
 
 ホウキ姫と従者チリトリは、クリーン王家の使命である、人々の
心に巣食う邪気ダストを退治する旅の途中だった。一つの村を救え
ば、次の村。またその村で噂を耳にすれば、また次の村。今まで幾
つの村を歩いてきたかは……数えているが……
 
「ホウキ姫……今度は……その……派手に掃わないで下さいよ?」
「なんでよ?お掃除はね!派手に楽しくやった方がいいのよ!」

 今までの経験上、無事に村を救った試しがなかったが、そんな事
などどこ吹く風という感じにホウキ姫は少し大きめの胸を張ってみ
せた。
 こういうホウキ姫の性格の為、せっかくダストを退治しても、無
用なゴミやホコリが大量に村から溢れだし、その都度チリトリは退
治以上の片づけを行わなければならないのが、とても億劫だった。
 
「で……でも……」
「あぁもう!はっきり言いなさい!って、次の村が見えたじゃない!さぁ行くわよ!!」
「あぁ……」

 チリトリへの注意もそこそこに、ホウキ姫はもうどうやったらそ
んなに早く走れるんだよってくらいの速さで、見つけた村へと土ぼ
こりを上げながら駆けていった。

「ゴホ……はぁ……」

 舞った土ぼこりにむせながらチリトリは、もうちょっと気合い入
れて走れと蹴飛ばしたくなるくらいダラっとした走りで、ホウキ姫
の後を追うのだった。
 
 
 
「ん〜〜〜、良い感じで邪気ってるわねぇ!」

 一足早く村についたホウキ姫は、肌に感じる邪気ダストの気配を
察知して、すでに臨戦態勢となり、大きなホウキを前方に掲げてい
る。すると、中から一人の老人がフラフラと近づいてきた。
 
「あぁ……お嬢さん……あん!?」

 ホウキが横一閃!
  ホウキ姫は遠慮することなく老人の顔面をホウキでフルスイング
したのだった。
  怪我だけではすまない吹っ飛ばされ方をした老人だが、何とも無
かったように起きあがると、黒い気がモワモワと吹き出し、その眼
は真っ赤に光っている。
 
「ガ……ナンデ……ワカ……」
「はっ!クリーン王家なめんなダストが!」

 老人は既にダストによって操られていたらしく、それを見抜いた
ホウキ姫の先制攻撃だったが……いくら操られている人間が多少丈
夫になっているとは言え……いきなりのフルスイング……
 
「ダカラ……テ……イキナリハ……ナ……イ!?」

 違いない

 言い終えるよりも先に再びホウキ一閃!
  今度は縦に振りおろされたホウキがダストに操られた老人を掃う。
勢い良く地面に叩きつけられた老人からはダストが、地面へドロリ
と流れ落ちてドロ団子のように固まっている。
 
「姫……もう……スタートですか……」

 ゼェゼェと息を切らした従者チリトリがようやく到着したようだ。
すぐさま背中にしょっていたチリトリを手に持って、ドロ団子と化
したダストへと近づく。
  すると薄く光り出したチリトリがダストを吸い寄せ始め、徐々に
その上で光りの粒となって消えていく。
 
「相変わらず、浄化能力は一族一ね。」
「あ……ありがとう……ご……ざいます……」
「さぁ!ヘバってらんないわよぉ!」

 まだ息も絶え絶えの従者チリトリの背中をパンと叩くホウキ姫、
そのまま前を見据えると、村の中からはダストに操られた村人が
真っ赤な目を光らせながら、うじゃうじゃとやってきた。
 
「姫……今日ばかりは止めにしません?」
「行くわよぉ!お掃除開始!!」

 従者チリトリの声など聞く耳持たぬ!ってな具合で嬉々としてダ
ストへと突進していくホウキ姫。
  老若男女お構いなく遠慮なく加減なくホウキを振りまわしては
掃っていき、その度にドロリと落ちていくダストを、従者チリトリ
は無言でせっせとチリトリに集めては浄化していく。

「どんどんきなさ……い!?」

  無双の如く村人を掃っていたホウキ姫だが、村の中央まで突き進
んだところで一際大きなダストが現れた。
 
「まさか……ダストンなの!?」

 ダストが何十人もの人を操った結果、合体して現れるダストン。
その大きさは人の多さによって変わるが、目の前のダストンの大き
さは人間の5倍ほどで、今まで相手にしてきたダストンの中でも
トップクラスだった。

「上等!!」
 
オオオオオオオオオオ

 咆哮にもにた叫びを上げるダストンに億さず怯まず躊躇わず、ホ
ウキ姫は高らかに飛び跳ねて、その頭部へ一閃振り降ろす!が!
 
「あら?」

 ホウキ姫の一閃はダストンの分厚い腕二本で防がれてしまった。
すぐさま反動を利用してその場を離れて無事に着地し体勢を整える
が、ダストンは己の身体を分裂させ、小さなツブテを連続発射。
 防御が苦手なホウキ姫は必死に交し捌きながら直撃を凌ぐが、自
  慢の足が使えないほどに弾幕は厚い。
 
「これは……マズイかっな!?」

 小さなツブテの中にスイカ大の大きなツブテが飛来、咄嗟に弾幕
の薄い場所に逃げるがダストンの狙い通り、着地の瞬間に足元を狙
われて転倒。
  すぐさま受け身を取って体勢を立て直すが、ダストンは、巨大な
腕を一直線に打ち抜こうと引き絞っている。

「チリトリ!!」

 ゴウ!っという風鳴りが聞こえ、当たると思った瞬間に目を
ギュっと閉じたホウキ姫。
  しかし、衝撃はやってこない……変わりに金属音の甲高い音が耳
を貫いた。
  ゆっくりと目を開いていくと、そこには従者チリトリが巨大化し
たチリトリを盾として、巨大な拳を受け止めていた。
 
「遅い!!チリトリ!」
「姫が早いんです!」

 さすがの従者チリトリも声を荒げてしまうほどに、今の状況は切
迫していた。巨大な拳に耐える為にチリトリの巨大化と呪力による
自身の強化を同時に行っているからだ。
  が、そんな事を知らず、貧相な少年に受け止められた事に驚いて
いる様子のダストンだったが、再び拳を引き絞り、今度は両手を握
り合わせる。大きさ二倍重さも二倍威力は何倍か?それは巨大な槌
のようにも見えた。
 
「仕方ないわねぇ!チリトリ!縦に使っていいわよ!」
「え?……でも……」
「いいからやんなさい!」
「はい!」

 ホウキ姫は両手を掲げて、従者チリトリの背中を叩く、すると同
時に、二人の周囲に魔法陣が形勢され、光の奔流が生まれる。
  従者チリトリは自身の身体強化に集中、盾として構えていたチリ
トリを縦に構えると、光の奔流がチリトリに集約して巨大な光の剣
と変化していく。
  弱弱しかった眼は力強く輝いてる
  キっと上を見上げる従者チリトリ
  眼前には巨大な槌が振り降ろされる直前
   
「さぁ……跳びなさい!チリトリ!」
「はい!」

 ホウキ姫の掛け声とともに、奔流が爆ぜる!
  従者チリトリは矢よりも弾よりも早く上空へ飛び出す。
  垂直に振り下ろされてきた巨大な槌を両断!
  切り離された両腕は光の粒へと変化していく……
  上空への加速が止み、従者チリトリは光の剣を上段に構え落下
 
      一直線に
       狙い
       澄まし
      振り切る!

  両腕を失ったダストンには防ぐ術が無く、一刀両断!
  左右に分かれていく巨体はゆっくりと崩れ落ちながら浄化されて
いく。
 
「やったぁ!!……ってあれ?チリトリ?」

 両手を上げながら喜ぶホウキ姫が見つけたのは……見事に着地失
敗して、うつ伏せに倒れている従者チリトリだった。
  小走りに駆け寄り、ホウキの先でつんつんと突っ突いてみる……
するとプルプルと腕を震わせながらどぉにか、上半身を起きあがら
せ、そのままごろんと仰向けに寝てしまった。
 
「おーい、大丈夫かぁ?」
「……死ぬかと……思いました……」

 そらそうだ、いくら身体強化をしても、貧相な身体には変わりな
い、元に戻った時の反動のせいもあるし、その上あの高さから滑空
して恐怖しないほど、心も出来てはない。
  一つ大きく深呼吸をして、まだ力が入りきらない腕で無理矢理起
きようとすると、ホウキ姫が静かに右手を差し出した。
 
「姫?……」
「何よ?起きるんでしょ?手を貸してあげるわよ。」

 無事に掃除を終えた事にほっとしているのか、とても優しい笑顔
をしている。
  素直な気持ちで差し出した手だが、従者チリトリは……
 
「い!いいです!自力で、た……立てま……す!!」

 顔面真っ赤になり、わたわたとその場でのたうちまわりながらも、
どぉにかこぉにか立ち上がるが……まだ足が震えている。
 
「ね?立てました。」
「ふぅん……」

 その姿をじぃっと眺めるホウキ姫。その笑顔は……優しいと言う
よりも、何か思いついたような……
 
「あ!あれ!」
「え?」

 一瞬の隙!っと言うよりも引っ掛かる方がどうかしてる古典的な
騙しに従者チリトリは思わず指指す方を向いてしまった。
  視線の先にはただの民家と青い空だけ……のところへ、突然色鮮
やかなドレスとフワリとした髪の毛が視界に入る。
  身体は優しく包まれ、少しだけ甘い香りが漂い、人の温もりが伝
わって、胸が高鳴る。
 
「ひ……姫?」
「ありがとう……チリトリ……」

 そっと力を込めるホウキ姫の想いに応えようと従者チリトリもま
だだるい腕を回そうとするが……視線が姫に吹き飛ばされ起きあ
がってきた村人とあってしまった。
  見れる範囲で辺りを確認、さきほど掃うためとはいえ、ホウキ姫
が殴り飛ばした村人がぞくぞくと起きだしては、中央で抱き合いる
二人を眺めている……そらそうだ。
  何人かは微笑ましそうに見ているが、何人かは……おそらく飛ば
された衝撃やホウキ姫が振りまわしたホウキで壊れた家や私財を眺
めて無言で立ち尽くしていた。
 やりすぎた。
  
「あの……姫……マズイ気がします。」
「いい?3 2 1」
「え?ちょ!?」
「ゼロ!」

 一気に走り出す
 
「ま!早!姫!」

 土ぼこりを上げて
 
「アハハハハ!さぁ次はどこにいけるかな!?」

 明るく元気で逞しいホウキ姫が右手で掴み
 
「……どこでもいいですよ……」

 暗く無愛想で貧相な従者チリトリが左手で掴む
 
「「二人でなら」」

 

 

 

 

 

 

後書き的な何か

言いだしっぺのコウさんと
素敵なキャラを描いてくれた若松さんに感謝

 ほぼ一日で書いたので多少……どうだい?ってな部分がありますが……
  少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
  ネタとしては主従ネタになりますが、チリトリくんがヘタレ設定で最後は見せるよ!っていうのには応えられたかなと思ってます。
  最初はチリトリ従者だったんんですが、俺の都合で従者チリトリとなったのはすいません。
  とりあえず脳内が楽しかったので俺得ともいえますw
 
 では最後まで読んで下さりありがとうございました。
 

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