〜ローボニマファパロ中巻〜

 

 

 

 

早く外に出たい欲求とは反対に、
エレベーターは変わらぬ速度で降下し、
ようやく目的の階へ着き、自らの意思で歩く事ができる。
ロビーで待機していた、
キャスとペンはローの姿を確認するや、
彼の機嫌が最高に悪い事を察知し、
何も言わずに後ろに付いて歩く事にした。
ローは無言のまま、エントランスを抜け、
すっかり暗くなった街へと歩きだし、おもむろに口を開いた。

「キャス・・・次は?」

このメンツで話かけられるのは自分だと認識をしていても、
今のローの状態で声を掛けられると多少怯えてしまう。
それほどに、ローは怒りを抑えていた。

「今日はもうダメだよ、それにこれから、
 "裏街"も人であふれてきますし。」

チッっと舌打ちを鳴らしローが先頭を切って歩く、
溜まった怒りを発散できない事にも苛立っているが、
それよりも何かしていないと自分が爆発しそうで怖かったのだ。
ダラダラと街を歩き続け、薄暗い道へとそれしばらく、
歩くと、目の前には明るく照らされた店が立ち並んでいた。
ここは"裏街"と呼ばれ、昼の人間には縁遠く、
裏の人々にとってはここが、"昼"となっている。
昼のような賑やかさがあるが、そのほとんどが

   聞くに堪えない言葉達
     
そんな言葉が身体に纏わり付くのを堪え、一軒の店へと
三人は入っていく。

【BAR BASIL】

この店の客のほとんどが、夜を昼として生きており、
三人とは同じ職種の連中が多く集まる。
当然外のいざこざもあるのだが、
店にはたった1つの暗黙のルールがある。

【酒の前での争いを禁ずる】

したがって店内でのモメ事はご法度である。
入店してすぐに、三人はいつもの席につき、
ステージを見ると、大きな男がピアノを弾き、
もう一人の東洋風の男がドラムを叩いている。
その見かけとは裏腹に、調べは優しく、緊張していた
彼らの気持ちを少しだけ和らげた。
その隙を見のがさず、ここぞとばかりにキャスが気になっていた事を、
ローに聞いてみる事にした。

「ねぇ室長、会議でなにがあったのさ、一人だけ遅かったけど。」

あからさまに憮然とした態度をとり、その視線がどこに向けられて
いるかわからない。

「いいから・・・バジル屋んとこいって酒もってこい!」

ここは言う通りにしておこうと、
しぶしぶ立ち上がり、キャスはいつもの飲み物を注文しに、
カウンターにいるマスターの所へ向かった。

「マスター いつもの3つ」

長い金髪をストレートに下ろし、無表情な顔で、
注文された酒を作り始める。
その姿は、流れる曲と合っており、
このような場所でなければ、女性客がカウンターに
陣取るな、などと他愛もない事を考えていると、
目の前にそっとグラスが3つ置かれた。
すると、おもむろにマスターが近づき、
キャスだけに聞こえる声で、

「キャス・・・悪い事は言わない・・・今日は早く帰れ。」

突然の忠告に驚くが、これが1度や2度ではない上に、
彼の予言じみた言葉は当たると評判だっただけに、少し不安になる。

「え・・・俺達今来たばっかりだけど?」

変わらない表情で、目線だけがキャスの後方に座っている
ローへ向けられた。

「お前達に苦難の相がでている、特に・・・アイツにはな。」

いつも苦難ばかりだけど、っと軽く自嘲めいて考え、

「気づかいありがとう、これ一杯で止めておくよ。」

少しだけ笑みを浮かべながら、グラスを器用に3つ持ち、
二人が待つテーブルへ向かった。
そっと置いたグラスからは、強い香りが立ち昇る。
横目で少しローの様子を伺うが、彼の機嫌はまだ治っていないらしく
キャスは決心し、もう一度だけ、聞いてみる事にした。

「室長・・・ちゃんと応えてくれ、さっき何があったんですか。」

また先程と同じように鋭い視線が向けられるが、
ここで引いては意味がないと思い、キャスもローを凝視する。
それに観念したのか、何かを伝えようとした時、

「よぉ・・・トラファルガー」

「タス屋・・・」

彼ら3人が座っていたテーブルの隣に、立つ男
ペンよりも大柄で、赤い髪と深紅のコートが目立つ。
ユースタス組 頭 ユースタス・キッド
そして、その隣には目深に帽子をかぶった男が一人
彼の右腕として、随分と働いているらしく、
本名か字名か定かではないが、キラーと呼ばれている。

睨みつけるように、キッドはローを見下ろし、
大きな口で笑みを浮かべながら、話を始めた。

「もう話は聞いたんだろうな?」

キャスとペンは何の事かわかってはいない、
だがその言葉はローの怒りの元なのだと気付いた。
何故なら、彼が掴んでいるグラスからは、
ガラスが砕けそうなミシミシという音が聞こえていたからだ。
そんな状態でも平静を装った声で答える。

「あぁ・・・お嬢様との婚礼まで身辺警護を任された。」

相変わらず立ったままのキッド、
どうやら人を見下ろすのが好きならしいが、
その姿悔しくも堂に入っている。
しかし、それとは別に今しがたローの口から発せられた事実に、
ペンとキャスは驚きを隠せず、お互いを見合っているままだった。

「その婚礼だがな、明後日にした。」

この一言で場の空気はさらに重くなり、
平静を装っていたローにも限界が近づいていた。

「・・・」

徐々にその重さが周囲を巻きこむように広まっていく。

「お前らの組ではいつでも良いと言っていたからな、
 それに・・・勝負は早いうちに決めた方がいい。」

「てめぇ・・・!」

余程ユースタスの言葉が気に障ったのか、突然ローは大声を張り上げ、
相手の胸倉を掴み、殴りかかろうとした・・・・・・瞬間
今までユースタスの影に隠れていたキラーが素早く横に飛び、
ローの眼前に銃口を突きつけた。

「おいおいここじゃあ、揉め事はなしだぜ。」

「室長!」

慌ててキャスがローを引き離し、テーブルから離れようとすると
キッドが先に踵を返し、離れ際に、

「おい!ペン!今のうちに、この間の話考えておけよ!」

それだけを言い残し、キッドはキラーに銃をしまうように言い、
その場を立ち去った。
彼らが去った後、緊張で張り詰めた店内の空気は弛み、
先程キッドが発した言葉に、少なからず皆動揺していた。
この街では知らない者はいない程の大きな組同士の、
結婚ともなれば、それ相応のモノが動く。
最初は小さな声でも、次第にその輪は広まり、
今はすでに演奏の音すら聞こえない程に、声は広がっている。

そして、当事者であるローは黙って下を向いたまま、
動こうとはせず、キャスが声をかけようやく席から立ち上がらせる。
その際ペンは少しも手を貸さずに、ただ黙っているだけ、
キャスは少し苛立ちを覚えたが、この店を出るのが優先だと考え、
まるで木偶人形にでもなったようなローを抱えながら店をでた。
その間も声は止む事はなく、視線の刃が自分達に
向けられていると感じた。

やっとの思いで、事務所につき、自らの意思で動かないローを
ソファに放り投げ、キャスはそのまま珈琲を入れようとしているが、
ペンは相変わらず黙って立っているだけ。
静まり返った室内に、キャスが作る珈琲の音だけが響き、
やがて鼻腔を刺激する、良い香りが部屋を漂い、
三人の心を少しだけ和ませたのか、何も言わずとも、
お互いが向かい合う形で、ソファに腰を掛けた。

微かに自嘲めいた笑みを浮かべるロー、だがその眼は笑ってはおらず、
怒りで満ちていると二人は気付いていた。
キャスは持っていたカップをそっとおき、今度こそはと言う、
気持ちで答えを求めるために、ローの方へ居座り、
頭の中を冷静にしながら三度目の質問をした。

「室長、今度こそ答えて下さい。お嬢様の婚礼ってどういう事なんですか?
 それに、ユースタスが言っていた事って…」
 
キャスの問い掛けに、目線だけを向け答える。

「そのままだよ、ボスの考えで、お嬢様をタス屋へ嫁がせる。
 表向きは協定だが、実際は吸収と言っても良い。」

感情の起伏など無く語られる言葉の重要性をキャスは理解したが、
今は語ったローのあまりの冷静さに驚くばかりで、
さらに聞く事に若干の抵抗を覚えた。

「・・・それを室長は了承したんですか?」

「ボス…の命令だからな…」

言い終えるや、奥歯を噛みしめた音が聞こえ、
ローは俯いてしまった。
自らが考えていた出来事と酷似している事に、
キャスは戸惑い、また彼の中ではローが仮にそのような話を
持ちかけられたとしても、断るであろうと、安心感があった。
だが、彼が思っているよりもローは何かに縛られていたのだろう。
持ち続けた安心感がそのまま反転し、焦燥感が沸き上がるまで
さして時間は必要なかった。

「命令だからとか・・・お嬢様って!ボニーお嬢様の事でしょう?
 どうして、そんなに冷静でいられるんですか!!??」

ずっと行動を共にしていただけに、ローがボニーに対しての
感情などキャスとペンは重々承知していたはずだった。
それだけに…何故…

痛い所を突かれたのか、ローは視線を上げ、
一喝するように吐き捨てる。

「お前には関係の無い事だ!」

ビクっと震えるキャス
まだ聞きたい事があるのだが、彼に一喝されては、
次の言葉が出てこない。
すると、この始終を見ていたペンが、低くも通る声で
キャスが聞きたかった次の言葉を続けた。

「ユースタス・キッドとの勝負と言うのは?」

余計な事をとローはペンを睨みながら声を荒げ

「どうでもいいだろう。」

ふぅと一つ息を吐き、ペンは静かにソファから腰をあげ、
ローを見下ろすように、核心に触れる言葉を、振り降ろす。

「室長が言いたくないならいいです。でも…その勝負は、
 ボニーお嬢様の事ですよね?」
 
聞き終えるやいなや、ローはすぐさま立ち上がり
それと同時に、テーブルを横に投げつけ、荒ぶる声は
一層怒りが増している。

「黙れ!それ以上喋るな!」

激昂するローとは反対に、ペンは静かにローに近づき、
はっきりと伝わるよう、問いかける。

「そぉやって、最後まで隠し通すつもりですか、ご自身の気持ちを?」

「・・・っ!!!」

瞬間、ローはペンの胸倉をつかみ、壁際に叩きつける。

息遣いは荒く 歯は喰いしばり 両手に力を込める

しかしペンは顔いろ1つ変えず、いや正確には、
眼だけは違っていた。

悲しき獣を 哀れむような 眼

やがて一つの雄叫びと共に、
                    黙れ
ローはペンを投げ捨て、
                    黙れ
壁にかけられている装飾品や、
                    黙れ
机の上に置いてあった、
                    黙れ
品々の数々をところかまわずぶちまけけ始めた。

その姿は   まるで   子供

ようやく落ちついたのか、どっかとソファに腰掛け、
天井を仰ぎながら、大きく深呼吸をし、おもむろに、
今度は自分が感じていた事を問う。

「そうだペン…お前さっきタス屋に考えておけと言われてたな。
 あれは、なんだ?」
 
荒れ狂った獣から離れるように、
壁際で傍観者となっていたペンは表情も変えずに、ローの方を
見ており、その変わらぬ顔で淡々と短く答えた。

「先日、ユースタス組へこないかと言われただけです。」

変わらず天井を見続けるロー

「それだけか?」

変わらず淡々と答えるペン

「それだけです。」

無理に治めた怒りが少しだけ立ち上り、
声にも怒気が混じる。

「てめぇ…いい加減にしろよ?言いたい事があるなら
 はっきり言え クソが。」

今まで冷静だったペンだが、どこか逆鱗に触れたのか、
その眼は軽蔑の意味が込められ、近づく足も踏みしめ近寄ってくる。
ローの眼前で立ち止まり、しっかりとした口調で、心意を告げた。

「今の今まで、向こうへ行こうなんて考えませんでしたけどね。
 でも、あなたがくだらない事で、悩むなら、俺はこの組を抜けます。」

突然の言葉に、二人は立ち上がるが、反応は対照的で、
キャスは信じられないといった顔で、ペンの方を見ており、
ローは先程までと同じような怒りをあらわにしている。

 「ペン!」
 
 「なんだとてめぇ…」
 
それでも動じずにペンは非情と知っていても、言葉を続けた。
 
「たった1人の女くらいで、いつまでもグダグダと、
 くだらない。」

またもや似たような光景になるが、今度はペンも黙っているわけでは無かった。
ローの腕がキャスを掴んだと同時に、キャスもまた、ローの胸倉をつかみ上げる。
  
「てめぇ!何も知らねぇで言うな!」

それを必死に割って入り、この場を鎮めようとするキャス。
どぉにか二人を離し、ペンの胴に腕を回し、制止させた。
しかし、ペンの怒りは収まりはしなかったが、
その声の中には悲哀すら混じっている。

「知りませんよ、だって俺が知ってるあんたは、
 もっと格好良かった。黒くて 卑劣で 外道で 悪党だった。
 自分の敵なら、同情なく倒して、欲しいものなら、躊躇なく
  奪い取ってきた、あんたが…格好よかった。」
 
己の秘めた想いを叫び尽くしたのか、ペンの呼吸は荒い。
その身体を抑えていたキャスも、彼がもう怒りにまかせて、
暴れないと悟り、今度は自分の番だな、っと思い振りかえり、
ただ呆然と立ち尽くしているローに向けて言葉を放つ。

「室長…俺らに気を使ってるのなら、それは俺達にとって
 屈辱です。俺達は室長だからここへ残ったんです。
 今更、室長の我儘くらい、慣れてますから。」

先程までの殺伐とした空気とは程遠い笑顔を見せるキャス。
それに呼応するように、ペンもまた、片頬を上げ、
未だに間抜けな顔で見ている室長に問いただす。

「ふう、そういう事です。それで…どうしますか室長?」

キャスのそれと違い、腹が立つペンの笑顔に、
ようやく呆けていた、頭に喝を入れ、これからなすべき事を、
心に刻み、ゆっくりと立ち上がる。

「腹が立つ部下を持ったもんだな俺も…」

          力が漲り

「もうこの街には戻ってこれねぇぞ。」

          欲望が溢れ
         
「忘れ物は無ぇな。」

          悪意が満ちる

そう言い、ローは二人の方へようやく目線を上げると、
キャスは少しだけ名残惜しそうな表情を見せるも、
またあどけない笑みを見せてくれた。

          くすんだ瞳に黒炎が燃え


「へへ、忘れ物・・・でもないけどね。俺には大きすぎるし、
 旅は手ぶらな方がいいでしょう。」

          折れた背筋を鋼に変え

「室長みたいに、尾は引かないんですよ俺は。」

          腑抜けた身体に意志の塊を詰める。

反対にペンはいつものキャラクタに戻っており、
先程のような喜怒哀楽も表せれるのだなと、思うと、
不思議と腹も立たなくなっていた。

          忘れていた感覚を思いだし

「いいだろう。明日の夜・・・ボニーを奪い取りに行くぞ。」

          過去の自分を蘇らせる。

暗く塗りつぶされた空から、開演を告げるように、
雷鳴が轟き始め、降り落ちた滴達が待ちわびたように、
地面を鳴らし、最初で最後の大舞台が始まった。

 

 

−−−−−−−−−− 続く −−−−−−−−−−−



〜後書き的なもの〜
どうも亀通り越してナメクジ状態な俺です
スイマセン orz

書いて消して書いて消しての繰返しをしているうちに
時間が経ってしまいました。
最初はこんなに長くなる予定ではなかったんですけどねぇ・・・
まぁちゃんとなってるかは謎ですがw

とりあえず中盤です。
なので上中下になるん・・・ですかね?
大したもの書いてないのにwww

気付いたらボニーちゃん今回出してなかったなwww


このパロで書きたいネタも1つあるので、
多分全部で5つ位になる予定ですが

予定は未定ですwww

ひとまず
ここまで読んで下さった方々ありがとうございました♪
(*- -)(*_ _)ペコリ

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