〜駆け引き〜


ドンドンドン

ドアを叩く音が遠くから聞こえる

ドンドンドン

うるさい 俺はまだ眠いんだ。

おーい 起きてるかぁ?

誰だ?知らん・・・

ドンドンドン いるんだろう!!

誰だ・・・!?

トラファルガー・ローは、眠気を
振り払うように、勢い良くベットの上から
起き上がり、早足でドアへと向かうが、
それを知らない、来訪者はまだ執拗にドアを叩いている。
急ぎ鍵をはずし、ゆっくりとドアを開けると・・・

「よう!遊びにきてやったぞ!」
そこに、少し眉を吊り上げ、腕組をし、
まるで仁王のように立っていたのは
ジュエリー・ボニーだった。

「何をしにきた?ジュエリー屋、俺はまだ寝ていたいんだが?」
無理矢理起こした頭を、ギリギリの精神で支えつつ
ローは一刻も早く彼女を追い返そうと考えるが・・・

「知るか!とにかく遊びにきてやったんだ。
 少しくらいは有難く思え、そして私は腹が減ってる。」
 
ローの話など聞かずに、ボニーは自分がここに来た
理由だけを告げ、遠慮なく部屋へはいる。
その部屋には、アンティークと言えるものがほとんど無く
壁一面に置かれた棚には、薬品の瓶や、何かの道具が
一杯に収められ。
家具といえるものは、1つの大きな机とベットのみ

「なぁんにも無いな!」
「うるさい・・・」
ローは寝ることを諦めて、自分の仕事をしようと、
必死に眠気と戦っている。

「なぁ どこに座っていいよ。」
「適当に座れよ。」

そう言われてボニーは居座る場所を探すが・・・
座れる場所といったら、あの診察台のような所しかない。
どうしようかと考えていると、ローが
一脚の折りたたみイスを机の脇に置き、
本棚の方へ歩いていく。
どうやら、それは彼女に用意されたイスのようで、
しばらく待ち、少し残念な気持ちになりながら、
ボニーはそのイスに座ることにした。

改めて部屋を見るが、本当に何も無く。
静寂の一言、唯一聞こえる時計の音がやたらと
大きく聞こえるくらいで、
それに共鳴するように、自分の鼓動さえ聞こえてきそうだ。

思い出したように呼吸をすれば、
薬品の匂いが鼻腔を突きぬけ
身体の隅々まで、行き渡る錯覚に陥る。

「ほらよ、ジュエリー屋」

いきなり声を掛けられて驚き、振り返ると、
ローが大きな本を二冊持っており、
そのうち一冊をボニーに手渡した。

【今月のオススメ!美食ランキング!】
っと銘うたれたグルメ雑誌で、
怪訝な顔でローの方を見るが、
彼は分厚い医学書を机におき、熱心に読み始めた。

『わたしに、これを読んで大人しくしてろって事か?』

仕方が無く読んでみるが、
収められた写真や、紹介文などを見ても、
腹が減る一方だ。

『それにしても、せっかく遊びにきてやったのに、
 茶の一杯も出さない気かこいつ?』

横目でローを見るが、さっきと変わらず、熱心に読み続けて、
時折、何かを書き出している。
お茶など出してくれる雰囲気ではない。
まだ5分と経っていないが、彼女にとっては
退屈すぎる時間で、なにより食べ物が無いのが辛い。
こちらから、頼みたくないが、
何かを言わなければ、始まらないな。
っとボニーは気付き、まずは機嫌を損ねないように、

「お茶が飲みたいなぁ」

聞こえるか聞こえないかわからない程度の声を出し、
少し横目で、ローを見るが、彼の視線は本に向けられたまま。
これくらいで、振り向いてもらえるとは思っていない、
今度は少し大きめの声で、背もたれに身体を預けながら、

「何か飲み物が欲しいんだけどなぁ。」

変わらず無視され、

『クソ こうなりゃ』
たった2回の挑戦で彼女は大人しくするのを諦め、
おもむろに、ローの耳元で囁くように、

「お茶がぁ 飲みたいん で す け ど」

ようやく聞こえたのか、はたまた観念したのか
ローがボニーを一瞥すると、面倒くさそうに立ち上がり
どこかの部屋へ消えていった。

『よしよしこれで食い物にありつける。』
嬉々として待っていると、すぐにローが戻り、
目の前に置かれたのは
墨汁と見間違うがごとく黒く
灼熱のような熱さの珈琲がカップ一杯のみ。

『確かに、飲み物が欲しいと言ったが・・・』

少しずつ苛立ちが募るが、
せっかく自ら足を運んだのだ。
珈琲一杯だけで帰れはずもなく、
意地でも何か食い物を出させなければ。
そう思い根気良く待つが・・・


10分


20分

 

30分

待てど暮らせど何も出てこない、

『わたしは、ここに何をしにきた?』

出された珈琲は既に冷たくなり
苦さだけが余計に際立ち、飲み物としては
最悪の状態になっている。
ローの様子を伺うが、ずっと同じ姿勢のまま、本を読んでいる。

『こいつは・・・馬鹿か?わたしを相手にしないとか・・・』

自慢の腹の虫は、鳴りっぱなし、
飯を食べにきたはずなのに、ありつけない・・・
どぉしてくれよう ただただ怒りが込み上げ、
彼女の我慢は限界に達しつつある。

「なぁ ロー?」

問いかけるが、彼の姿勢は変わらない。

「ロー!?お腹が減ったぁ。」

もう遠慮などしている場合ではない、
徐々に声の大きさを上げていくが、
ローの姿勢は変わらない。

「なぁ!ロー! 私はぁ は ら が へ っ た ん だ!!」

まるでボニーの存在を消しているのではと、
思ってしまう程に、彼の姿勢は変わらない。
ここまで無視をされると怒りを通り越して
悲しくなってくる。

「くっ、なぁローって 聞こえてるんだろ?」

動かない

「返事くらいしろよぉ。」

視線は本とノートを行き来するだけ。

「もう!無視するなよ!少しは私をかまえよこの野郎!」

無視され続けた、ボニーの感情は、
怒りと悲しみがごちゃまぜになり、抑えきれない感情は
涙となり目を潤ませ、ローの背中を思いっきり叩く事で、
いくらか発散できるが、それでも収まるはずはない。
さすがのローもようやくボニーの方を見るが、
彼女の瞳から少しだけ溢れた涙が一筋の道を作り頬を伝っていた。

「ジュエリー屋ぁ、痛ぇじゃねぇか。」

無機質に感じられる声が、余計にボニーの神経を逆なでする。

「うるさい!バーカ!お・・・お前なんか・・・ 死んじまえ!」

空腹と怒りと悲しみが、ボニーの理性を突き抜け
あらん限りの大声でローを罵り、
すぐさまドアの方へと踵を返す。

「待て ボニー!」

叫びながら、急ぎボニーの後を追い、彼女を引きとめるように
素早く左手を掴むが、彼女の右手はドアノブに触れており、
すぐにでも飛びだせる準備は整っていた。

「かまってやれないのはすまないと思っている。だが俺には俺の時間がある。」
 
自然と掴んだ右手に力が入り、少しだけこうなった事を後悔しながら、
こちらを振り向かないボニーに、諭すように言葉をかける。
 
「それに俺は、外科医だ。今この瞬間得た知識が、仲間を救う事もある。」

ボニーの顔はドアを眺めたままで、まるでさっきの自分のようだと、
自嘲しながらも、彼には彼女にはない考えがある。

「それに・・・誰も食べさせないとは言っていないだろう?」

「え?」

その一言で、ボニーはローの方を振り向いた。
そこには、悪戯小僧が見せるような、
してやったりという笑顔のロー。
唖然とするボニーの左手を離し、ローは先程コーヒーを取りに
行ったと思われる部屋の中へ消えて行き、
少しだけ間を置き戻ってきた。

「さぁ、お嬢さん、こちらへ。」

そう言いながら、今度はそっとボニーの左手を握り、
ゆっくりと、先程の部屋を招き入れる。
すると、そこには、十人程は座れると思われる、
長いテーブルの上一杯に料理が並べられていた。

「これでも急がせたんだ。お前とゆっくり飯を食うんなら、
 これ位の量はいるだろ?」

長いテーブルに用意されている椅子は2つ

「それとも、足りないかな?」

そのうちの1つを、ボニーが座りやすいようにローが
軽く椅子をひいてあげている。
ようやく気持ちが1つに収まり、流れた涙を拭いながら、
精一杯の笑顔で答えるボニー

「バカ野郎・・・」

・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・

扉の向こうからは談笑する二人の声が聞こえてくる
食べて 飲んで 笑って とても楽しそうだ
ただ、その扉には1つの貼り紙がしてある。

【船長命令 1.俺が良いと言うまで開けるな。】
【     2.今日の飯は各自調達!!!!!】

扉の外側にいる船員たちは一様に肩を落としながら
そっと船の外へと出かけて行った。


END

 

 

〜後書き的なもの〜

これを書くあたり
手ブロでお世話になっている
アーコさん
みサマさん
いつも素敵なローボニを
ありがとうございました♪

このネタも絵茶からできたものでした。
最初は泣くくボニーちゃんを
書く(大きな事は言えません)
のは抵抗ありましたが、
まぁ・・・やっぱ辛いですねw

とりあえずローを悪役っぽく書いて
見たかったですがぁ・・・
どう捉えられるか不安ではありますねw

それでも個人的には上手くできたと思ってますw
(あくまで自己満足)

最後まで読んで下さった方々
ありがとうございました♪


 

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